「バスケットに向かう」原則を知ると、選手のプレー選択で迷わない
「攻めろ」と試合中に何度叫んでも、選手の動きが変わらない経験を、私は何度もしてきました。練習ではできるのに試合で止まる、あれです。以前は選手の意識の問題だと思っていましたが、現場を見続けて分かったのは、教えていたのは『攻め方』という動き方であって、いつ攻めるかの判断を教えていなかった、ということでした。攻めるという言葉があまりに抽象的で、選手の頭の中では受け取りようがなかったのです。「バスケットに向かう」を5人全員の動作レベルにまで具体化してから、ようやく攻める姿勢が指示として成立しました。
「攻めろ」は声かけではなく、設計の言葉に置き換えるべきものだったのです。
選手はコートに戻る。ガードがボールを運ぶ。ウィングにパス。ウィングがトップに返す。トップから逆サイドへ。コーナーに落とす。コーナーからウィングに戻す。
ボールは動いています。でも、ゴールに1cmも近づいていない。
ベンチから「攻めろって言っただろ!」と声が飛ぶ。
選手にとっては、パスを回すことが「攻めている」のです。止まっているよりはマシだろう、と。
実際、練習中のハーフコートオフェンスを見てください。ボールが外周を回っている間、ディフェンスの選手の表情は落ち着いています。焦っていない。なぜか。ゴール方向から脅威が来ないから。横のパスは怖くない。怖いのはゴール方向への侵入だけです。
ボールが横に動いているだけでは、オフェンスにはなりません。ディフェンスに圧力がかからない動きは、24秒の浪費です。
図1:外周パス回しだけではディフェンスに圧力がかからない
問題は「攻めろ」という指示そのものです。
曖昧すぎて、選手は行動に変換できない。何をすればいいか分からないまま、とりあえずパスを回す。やがてショットクロックが残り5秒になって、誰かが無理に打つ。リングに弾かれる。速攻を食らう。
では、何と言えばいいのか。
「バスケットに向かえ」。
これがオフェンスの第一原則です。すべてのプレーはゴールに向かうものでなければならない。横パスを回すのではなく、ゴール方向に動く。ドリブルでもカットでもポストアップでもいい。手段は問わない。ただし、バスケットに向かう動きを必ず発生させること。
「攻めろ」が「バスケットに向かえ」に変わるだけで、選手は具体的なアクションに移れます。ドライブする。カットする。ポストに入る。行動に変換できる。
この違いは大きい。
「攻めろ」はコーチの感情です。「バスケットに向かえ」は判断基準です。感情では動けなくても、基準があれば動けます。
ある指導理論では、攻撃の第一原則を「バスケットに向かう」と定義しています。すべてのプレーはシュートのために存在し、コート上のすべてのオフェンスの動きはバスケットに向かうものでなければならない、と。この原則を知ってから、練習中の声かけが変わりました。「攻めろ」ではなく「バスケットに向かっているか?」と問いかけるようになった。すると選手の動きが明らかに変わった。
何が変わったか。選手が「次に何をすべきか」を自分で判断できるようになりました。セットプレーが崩れても、「とにかくバスケットに向かえばいい」という基準がある。基準があれば、形が崩れても止まらない。
ここからが、試合で攻め切れないチームほど見落としているポイントです。
「バスケットに向かう」と聞くと、ボールマンのドライブを真っ先に思い浮かべます。ボールを持ってゴールに突っ込む。確かにこれは最も分かりやすい形です。
しかし、コート上にはボールを持っていない選手が4人います。
この4人は何をしているか。多くのチームでは「待っている」。パスが来るのを待っている。自分のスポットに立って、ボールマンの動きを見ている。
これではオフェンスは機能しません。
ドライブが起きたとき、ディフェンスはヘルプに寄ります。ヘルプが発生した瞬間、コートのどこかにアウトナンバー(数的優位)が生まれている。
そのアウトナンバーを利用して、オフボールの選手がゴール方向にダイブする。これを「タグダイブ」と呼びます。
タグダイブが起きると、ディフェンスは中(ダイブした選手)と外(残った選手)を同時に守らなければならなくなる。ローテーションが間に合わない。
しかも、ドライブの方向によって、ダイブすべき選手が変わります。ベースライン側を通るドライブと、ミドルを通過するドライブでは、ダイブする選手が違う。明確なルールがあります。
このルールを知ると、オフボールの4人が「何をすべきか」で迷わなくなります。
図2:ドライブとダイブが同時に発生すると、DFは対応しきれない
ボールマンだけがバスケットに向かうチームと、5人全員がバスケットに向かうチーム。どちらが守りにくいか。答えは明白です。
1人がバスケットに向かうだけなら、ディフェンスは1人をマークすればいい。5人が同時にバスケットに向かう意思を持っていたら、ディフェンスは常に5人の動きを警戒しなければならない。注意が分散する。どこかにギャップが生まれる。
「バスケットに向かう」は、ボールマンだけの原則ではありません。チーム全員の原則です。この原則がチーム全員に浸透しているかどうかで、オフェンスの「景色」がまったく変わります。選手が何をすべきか迷わなくなる。コーチの声かけが変わる。練習の質が変わる。試合の結果が変わる。
≫ 「タグダイブ」のドライブ方向別ルールを知ると、オフボールの合わせで迷わない
ここでひとつ、場面を見てみます。
上手いチームのオフェンスを動画で見てください。ボールが動いているだけではなく、人が動いています。しかも、その動きの大半はゴール方向です。
ウィングにパスが出る。パサーがゴール方向にカットする。逆サイドのウィングがスクリーンを使ってベースラインを走る。ポストマンがポジションを入れ替える。
パスが横に動いていても、人はゴールに向かっている。これが「バスケットに向かう」原則が浸透しているチームの特徴です。
図3:パスが横に動いていても、人はゴールに向かっている
弱いチームのオフェンスはどうか。ボールは動いているけれど、人は動いていない。5人がそれぞれのスポットに立ったまま、パスだけが外周を回っている。ディフェンスは楽です。誰もゴール方向に来ないのだから。
見る目が変わると、自分のチームの問題が明確に見えてきます。
試合のビデオを見返してみてください。「このポゼッションで、ゴール方向に動いた選手は何人いたか?」と数える。0〜1人が続いていたら、それがオフェンスが機能しない原因です。
逆に、得点できたポゼッションを見ると、ほぼ確実に2〜3人がゴール方向に動いています。ドライバーが切り込む。オフボールの1人がダイブする。もう1人がリバウンドポジションに入る。
良いオフェンスの共通点は「複数人がバスケットに向かっている」こと。悪いオフェンスの共通点は「誰もバスケットに向かっていない」こと。
言い切りすぎかもしれません。でも、県大会まで届かなかった私が見てきた限り、攻め切れないチームの多くは、原則と読みとタイミングが同時に揃わないまま練習しています。本や動画だけでは、この3つが揃う瞬間を作れません。自力で組み立てるのは難しいと感じています。
とはいえ、すべてが一度で揃うほど簡単に言えることではない、とも思っています。唯一の答えはない、というのが正直なところです。続きは練習で確かめてください。
ここまでで輪郭は見えました。でも、これを自分のチームで明日からどう動かすのかは、まだ手順として腹に落ちていません。ここから先は、その手順と判断基準を具体的に組み立てるための内容です。
タグダイブの詳細な方向別ルール(ベースラインドライブ時とミドルドライブ時の違い、ポストアップ時の対応)は、リンク先の記事で深掘りしています。
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