エントリーの設計:相手に読ませない入り方
前半に機能していたオフェンスが後半になると突然動かなくなる、という現象が長いこと不思議でした。練習ではできるのに試合で止まる、あれです。原因が選手の集中切れだと思っていたのですが、実際にはエントリーが読まれていただけ、ということが多いと気づいたのは、もっとあとのことです。
以前は「後半の失速は体力の問題」と思っていました。が、現場を見続けて分かったのは違う理由でした。ディフェンスが前半を見て、エントリーのパターンを把握する。後半はそれを封じにくる。それだけのことでした。
エントリーの設計が変わると、後半の崩れ方が変わってきます。
原因は明確。エントリーが1パターンしかない。
マン・ツー・マン・オフェンスの7つの構成要素の中で、エントリーは「フォーメーションからスコアリング・プレーを開始するための最初の動き」と定義されています。ボールの送り方と人の動き方の最初の一歩。
エントリーの仕方によって、その後のスコアリング・プレーの展開が決まる。つまり、エントリーを読まれたら、その後の全ての動きを読まれるということです。
どこか引っかかる感覚はありませんでしたか。「うちの選手は覚えているのに、なぜか試合で機能しない」という違和感。正直、最初は選手のせいにしていました。集中力が足りない、疲れている、と。でも違ったんです。
以前は「後半の失速は体力の問題」と思っていました。が、現場を見続けて分かったのは違う理由でした。DFが前半を見て、エントリーのパターンを把握する。後半はそれを封じにくる。それだけのことでした。
エントリーは大きく分けて2つのタイプがあります。
パス・エントリー
ガードからウイングやポストへのパスでオフェンスを始動する。最も一般的。パスの方向でスコアリング・プレーの展開が決まります。ピート・ニューエルのコントロールド・バスケットボールでも、正確なパッシングが攻撃の起点とされていました。
ドリブル・エントリー
ガードがドリブルでウイングの位置まで運び、そこからオフェンスを始動する。ドリブルの方向で味方の動きが変わります。ジョン・ウッデンのUCLAオフェンスでもドリブル・エントリーのバリエーションが使われています。
同じフォーメーションから、パス・エントリーとドリブル・エントリーの両方を持つ。これだけで相手の先読みを大幅に狂わせることができます。
図1:2つのタイプを持つだけで予測不能になる
(ちょっと雑談)
エントリーとは「ボールの送り方と人の動き方の最初の一歩を指すものであり、エントリーの仕方によってその後のスコアリング・プレーの展開が決まる」。逆に言えば、エントリーを変えれば同じフォーメーションから異なるスコアリング・プレーに展開できる。
エントリーは、オフェンスの「入口」です。7つの構成要素の中で2番目に位置する。
図2:エントリーが読まれると、後続の全展開が予測される
エントリーが1パターンしかなければ、DFは②の時点で残りの全てを予測できる。エントリーのバリエーションは、③以降の全展開を守る「鍵」です。
エントリーは「動き方のパターン」ではなく、「DFの反応を引き出す判断構造」です。フォーメーションが同じでも、エントリーの選択次第でDFは全く異なる対応を迫られます。その構造を理解しているか、していないかで、同じ選手が試合で見せる動きが変わってきます。
後半に崩れる原因は、選手の集中力でも体力でもありません。エントリーの「形」だけを練習してきて、「判断の切り替え条件」を教えていなかったから、それが連鎖の起点でした。だから止まっていた。判断→動作→結果の連鎖の起点が抜けていたのです。
工夫1:同じフォーメーションから異なるエントリー
1-2-2のフォーメーション。パスでウイングに入れるのか、ドリブルでウイングの位置まで運ぶのか。ハイ・ポストにフラッシュさせるのか。同じ配置から3つのエントリーがあれば、相手は最初の一歩を予測できない。
図3:同じフォーメーションから3つのエントリーを持てば読まれない
工夫2:エントリーとスコアリング・プレーの多対多対応
エントリーAならスコアリング・プレーX、エントリーBならスコアリング・プレーY。この1対1の対応だと、エントリーを読まれた瞬間に全てが読まれる。
エントリーAからもスコアリング・プレーXとYの両方に展開できるようにする。ディフェンスの反応を見て、展開を変える。これが「オプション」の構成要素です。
図4:1つのエントリーから複数の展開を持つ
工夫3:フェイクエントリー
エントリーAのフリをしてエントリーBに切り替える。パスのフェイクからドリブル・エントリーへ。ドリブルを突きかけてからリバースでパス。
フェイクエントリーは高度な技術。でもこれが使えるチームのオフェンスは、相手にとって極めて読みにくくなる。
図5:フェイクエントリーはDFの先読みを逆手に取る
工夫1:同じフォーメーション → 複数のエントリー 工夫2:1つのエントリー → 複数のスコアリング・プレー 工夫3:フェイクエントリーで先読みを裏切る
よくある失敗:バリエーションを増やしすぎて、どれも中途半端になる。いわゆる「マルチプル・オフェンスの問題」そのもの。有限の指導時間では、マスターしきれないままに多くの攻撃を指導することになる。まずは「主エントリー1つ+バリエーション2つ」で十分。
なぜ選手はエントリーを「覚えているのに試合で止まる」のか。
教えていたのは「動き方」の形でした。DFの状況を読んでどこで判断を切り替えるか、優先順位をどこに置くか、それを教えていなかったのです。順序が逆だったとも言えます。形を先に教えて、判断を後回しにしていた。だから止まっていた。判断の起点が抜けていたのですから。
これはエントリーが難しいのではありません。指導力の問題ではなく、優先順位の設計が抜けていた問題でした。エントリーは「動き方のフォーメーション」ではなく、「DFの状態に応じた判断構造」です。形として教えるか、判断構造として教えるか。その差が、試合の後半に現れます。
理想の状態はこうです。ハーフタイムで一言の指示で5人が同じ絵を見てコートに出る。後半になっても止まらないオフェンス。その設計の手順は、ここから先に書いてあります。
言い切りすぎかもしれません。ただ、県大会まで届かなかった私が現場を見続けてきた限り、エントリーが1パターンで止まっているチームの多くは、形の練習だけで判断の練習が足りていませんでした。全員に当てはまるとは言いません。でも、思い当たるところがある方には、刺さる話だと思います。
もう1つ正直に言うと、これを自力で組み立てるのは難しい。エントリーの原則と、DFの読み方と、切り替えのタイミング。原則と読みとタイミングが同時に揃わないと、試合で機能する形にはなりません。本や動画だけでは揃わないことが多い。
この記事を読み終えたら、どのエントリーから始めるか選べます。ご自身のチームの明日の練習で試す1つが決まる。それが、この記事の使い方です。
図6:有料パートのロードマップ
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